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ダニエル・デフォー(Daniel Defoe) ①

  • 2012-05-28 (Mon) 06:33
  • 総合

 デフォーは17世紀中葉から18世紀にかけて生きた作家で、その代表作 “Robinson Crusoe” はイギリス近代小説の先駆者とされる作品だ。1719年に刊行されている。私は「ロビンソン・クルーソー」の名前ぐらいは知っていた。「無人島に流れ着いた男が艱難辛苦の末に母国に帰還する」物語ぐらいの知識も。今回の旅を前に実際に小説を読んでみて、その面白さに引き込まれた。
 書き出しから興味深い。語り手の「私」は1632年にイングランド北部のYorkで謹厳実直な商家の三男坊に生まれたことが明らかにされる。父親は「私」に法律の世界で生きるよう教育の機会を与えてくれたが、「私」は船乗りになる道を選ぶ。やがて、カリブ海の孤島で28年に及ぶ無人島生活を余儀なくされる運命が待っているとは露知らず。
 父親は外の世界が見たくてたまらない息子を概ね次のように言って諭す。「お前は中流階級の人間なのだ。下層階級の中の上流層と呼べる階層とも言える。私は長い経験から、我々の階層こそが世の中で一番暮らしやすい階級であることを知っている。職工の階層で生きる人々のような悲惨で困窮した生活からは無縁であり、上流階層の人々が味わう高慢や野心、嫉妬に悩まされることもない。歴代の王様だって、我々中流階級の人間に生まれてきたかったと嘆いているほどなのだ。貧困もなければ富もない、真の幸福を享受できる階層なのだ」(He told me that mine was the middle State, or what might be called the upper Station of Low Life, which he had found by long Experience was the best State in the World, the most suited to human Happiness, not exposed to the Miseries and Hardships, the Labour and Sufferings of the mechanic Part of Mankind, and not embarass’d with the Pride, Luxury, Ambition and Envy of the upper Part of Mankind….That this was the State of Life which all other People envied, that Kings have frequently lamented the miserable Consequences of being born to great things, and wish’d they had been placed in the Middle of the two Extremes, between the Mean and the Great; that the wise Man gave his Testimony to this as the just Standard of true Felicity, when he prayed to have neither Poverty or Riches.)
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 この小説が刊行されたころ、日本は江戸時代。「士農工商」の封建制度の時代だ。日本では「商」の世界に生きた当時の人々が「士農工」特に「士」の人々に対して上記のような「達観」に浸ることなど到底できなかったことだろうと思いを馳せた。もっとも、江戸時代の庶民がどのような暮らしをしていたかなど私は定かには知らない。「荒野の素浪人」や「水戸黄門」などかつて良く見たテレビドラマから「想像」しているに過ぎない。
 それはそれとして、ロビンソン・クルーソーの両親が「堅実に生きなさい」と「私」を諭すくだりは、古今東西、中高年層の読者には思い当たる節があるのではなかろうか。私もこのくだりで手がしばしとまった。
 (写真は、27日の「サンデー・タイムズ」の雑誌のエリザベス女王の即位60周年を祝う特集記事。前項のコメントの質問にタイミングの良い見出しが。「つづき」で)

 アメリカでもそうだが、日曜紙は多くの付録のような紙面や雑誌が付いており、手で持つとずっしりと重い。当然値段も平日の紙面より高くなる。特ダネ掲載で昔から知られる「サンデー・タイムズ」紙で言えば、姉妹紙の「ザ・タイムズ」が平日は1ポンドなのに対し、日曜紙は2.20ポンド。姉妹紙といえども、働いている組織は別組織であり、記者はお互いがライバルで特ダネを競っている。
 27日の「サンデー・タイムズ」に付いていた「サンデー・タイムズ・マガジン」は、エリザベス女王の即位60周年(ダイヤモンドジュビリー)を祝う記事を特集しており、そのうちの一つでは故ダイアナ妃の伝記を1992年に執筆したアンドリュー・モートン氏が女王とダイアナ妃との確執を振り返っていた。
 その見出しは Tea, But Little Sympathy というものだった。「お茶は一緒にしたが、同情はほとんどかけらも」という感じだろうか。モートン氏の回想によると、ダイアナ妃はチャールズ皇太子との関係がカミラ夫人の「関与」でのっぴきならなくなった1990年のとある夏の一日、エリザベス女王にお茶のアポを取り付け、バッキンガム宮殿に女王を訪ねる。隔たる一方の皇太子との関係を女王に聞いてもらい、女王から温かい励ましの言葉の一つでもかけてもらえれば、という思惑があったようだ。
 だが、女王は問題があまりに「生々しい」ためか、顔を曇らせ、あなたたちの問題はダイアナ妃、あなたの過食症が原因であって、夫婦の関係がおかしくなったから過食症になったわけではないのではないの、と冷たくあしらう。このやりとりでダイアナ妃は英王室の中で孤立無援である自分の立場を認識し、我々が知っている通り、王室からますます距離を置くようになったという。女王とのお茶が文字通り、tea and sympathy になっていたら、英王室の「風景」は今とは異なるものになっていたかもしれないとモートン氏は記している。If the conversation in the Queen’s sitting room at Buckingham Palace had gone differently, history might have handed Diana, Princes of Wales an alternative ending. Diana had made a teatime appointment to discuss her husband’s affair with Camilla Parker Bowles. … Along with the tea she was looking for sympathy. But the topic was way too emotionally gamey for her regal mother-in-law.….

Comments:4

たかす 2012-05-28 (Mon) 09:30

この2月のはじめに産経新聞記者がイギリスから、エリザベス女王は英国民の8割が支持していると報告しました。「お茶と絆」と言うすばらしいコメントを読みましたが、このサンデータイムズはダイアナさんを忘れるなという意味合いをもつ編集?

nasu 2012-05-28 (Mon) 16:20

先生 ダイアナ妃の死去の際にはダイアナ妃に冷たかったということで危機に立たされた女王ですが、今は、賞賛の声ばかりです。60年の長きにわたって英国民、英連邦に尽くしてきたことに対する尊敬の念が根底にあるようです。サンデー・タイムズの記事はダイアナ妃と親しかったモートン氏の回想ですから、ダイアナ妃に好意的な内容ですが、特に妃のことを忘れるなという意味合いは感じませんでした。女王やチャールズ皇太子がこの記事を読んだら、気分を害することは間違いありませんが。

Taka Asai 2012-05-28 (Mon) 18:35

省一さん、前項で指摘されていたように、決まり文句のtea and sympathyは、このようなネガティブナな情況にも使用するのですね。この特集記事の見出しのTEA, BUT LITTLE SYMPATHY、とてもうまいと思いました。機会があればToastmasterの例会で一度使ってみましょう。愚問かもしれませんが、英王室内の暴露記事はイギリスのタブロイド紙の得意とするところと聞いていますが、日本の一部週刊誌と比べていかがでしょうか。それから雑誌と一緒に撮ったビールは右がstout, 左がbitter?

nasu 2012-05-28 (Mon) 20:32

Asaiさん 英王室の暴露記事は一般紙でも容赦ありません。そうした風波に耐えてきているだけに、英王室はタフと言えるでしょう。特にエリザベス女王の場合はもう「別格」の領域にあるかと思います。ただ英王室の将来が盤石かというと決してそうではなく、ポスト・エリザベスは大変だと思われます。右は私がこのところ愛飲しているギネス。左はたまたま前に座っていたインド系市民のおじさんのビールです。たぶんビターですかね。ロンドンは天気が良いので、パブの外で気持ち良く飲んでいます。

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