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クリスティー『第三の女』論(後編)

 (アガサ・クリスティーの『第三の女』の真相部分に言及しますので、ご注意ください)
  最後にポアロが真相にたどりつけたのはゴビー氏のレポートのある点を転倒させることができたからかもしれません。ゴビー氏の調査は正確かつ詳細で疑うべきところは皆無なのですが、その中にアフリカ滞在中アンドリュウの死亡報告が間違って3回なされたことがあるという報告が書かれていました。実際に本物のアンドリュウは死んでいたわけですから、「間違った死亡」ではなく、間違えて死亡報告の方がなされなかったということになります。もしノーマが殺人を犯していなかったとすれば、誰かが彼女を陥れているだろうということまでは容易に推測できるでしょうが、真犯人の正体を(共犯者の正体も)見破るところまで到達するためには、ジグソー・パズルを完成させるようなポアロの思考法が必要だったといえるでしょう。
  原作においてもドラマにおいても、この作品の難点は、はたして人間は自分が犯してもいない殺人を犯してしまったと思いこんだりするだろうか? というところにあります。その点ドラマの方はノーマの心理描写に、よりリアリティを与えようと苦労しているように思われました。またドラマでは、ノーマが卒業した学校の校長先生バタースービーとフランシス・キャリィとの人間関係に原作にはない要素が付け加えられています。あまり必要性のない要素だという気もしましたが、父親以外の血縁者にも裏切られるノーマの絶望の深さを描きたかったのかもしれません。その分、最後にノーマとディビット(原作では殺されてしまいますが)が結ばれる場面には、希望が感じられました。
 

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