『あるくことば』
松岡政則
四六判並製、104ページ
定価:本体2,000円+税
ISBN978-4-86385-335-5 C0092
詩
聲のよろこび
聲はうまれそだった風土で決まる
聲とはなんの顕われだろう
ながつづきしない背な
会社を辞めたと打ち明けたとき
そういうこともあるよ、と母は笑った
そういうところがいまもある
ときどき粗い映像がまじってくる
おさななじみの春ちゃん、
わかくして死んだ春ちゃん、
ずっと誤解したままでいてほしい
告ぐるなき者らの聲
世界のありさまは映画館でみた
わかったことではなく
よくわからなかったことがからだに残る
難民になれない難民
消費されつづける被災者
話は聞いていなかった、
聲だけ聞いていた、
そういう失礼がよくある困る
どこにも居付けないからだだった
聲を聞き当てることと移動をつづけることは一つことだろうか
あるくはおやおやの無念おやおやの聲に振り回されるよろこび